現場医師のホンネをアンケート調査!どう思う?新専門医制度の現状と未来

2018年4月にスタートした「新専門医制度」。従来の学会認定専門医の乱立を是正し、国民に分かりやすい制度を目指して制定された。学会から独立した第三者機関「(一社)日本専門医機構」が、専攻医(従来の後期研修医)の登録、研修プログラムの整備、専門医の認定などを行う。長い議論をへて始動した制度だが、いくつもの課題や未決定事項があるのが現状だ。現場の医師たちはどう感じているのかを調査した。

  • 全体評価

圧倒的多数の回答者が、新制度を厳しく評価。
医師の都市部集中などを懸念する声が顕著

更新費用や手続きの煩雑さで
医師の負担が増している

新専門医制度の全体評価は、「良くない」「どちらかといえば良くない」を合わせて73.3%にのぼった。「良い」と回答した割合はわずか2.9%だった。

厳しい評価の一因は、新制度が基幹施設と連携施設をローテーションする「循環型研修」を採用したことだ。基幹施設と認定されるハードルが高いために大学病院や大病院へ医師が集中する問題や、遠隔地を含む関連施設を転々とすることで医師が生活設計を立てにくい点などに批判が寄せられた。

他に、診療科によっては専門医取得に6年もかかること、資格更新の要件が厳しくなり費用もかさむこと、手続きが煩雑になったことなどで困っている声が目立つ。日本専門医機構のあり方を疑問視する声も多かった。

一方、医師の自己研鑽が進むことや、かなり多い専門医が整理されることを期待する声もあった。

Q1 新専門医制度への評価

フリーアンサー

  • 地方病院では専門医が取得しにくくなった。(30代・男性・集中治療科)
  • 遠方の基幹施設での勤務が必要となり、育児との両立が困難で生活に支障がある。(30代・男性・精神科)
  • 初期研修期間の延長に過ぎず、よくないと思う。医師3年目にもなってローテートだなんて。(40代・男性・小児科)
  • 専門医取得までの道のりが長すぎて、内科の不人気に拍車がかかる可能性が高い。(30代・男性・循環器内科)
  • 地方では資格が取りにくく、地方の医師不足に拍車がかかりそうです。(60代・男性・アレルギー科)
  • 今まさに更新手続き中ですが、制度自体はともかく、提出書類の多さや煩雑さが面倒です。(50代・男性・麻酔科)
  • 結局は大学医局復活の布石になっていて、多様な医師の働き方を制限するものである。(30代・男性・麻酔科)
  • 医師のプロフェッショナル・オートノミーによるはずの専門医制度をなぜ官僚にゆだねるのか。(50代・女性・産婦人科)
  • 国は在宅医療などコモンディジーズを重視するような診療報酬体系をとる一方、研修医のほぼ全員に専門医を取らせるような制度は矛盾している。(30代・男性・腎臓内科・透析)
  • 医師に自己研鑽を迫るという意味では悪くない。しかし、人気のない大学病院に医師を引き戻す意図が見えるので、とても賛成できません。さらに金銭負担を課すなどもってのほか。(60代・男性・精神科)
  • あまりに多い専門医が少しずつ整理されれば。(30代・男性・脳神経外科)

医師に関する各種調査結果はこちらからご覧いただけます。
※ご利用には会員登録(無料)が必要です。
https://medpeer.jp/forum/surveys

調査概要
「医師専用コミュニティサイト「MedPeer」調べ」
◆調査日:2019年10月30日 ◆調査対象:MedPeer会員医師
◆有効回答数:3000人(男性89.0%/女性11.0%)
  • 資格の取得

自分の専門領域に特化した専門医のみを取得。
資格のメリットは“スキルアップ”と“信頼”

関連する専門医が欲しくても
多忙で取得できない現実も

回答者の82.6%は何らかの専門医資格を保有していた。そのうち、ほかの専門医を取得する予定のある医師は18.6%にとどまった。一方、専門医を取得していない医師(17.4%)は20代や65歳以上だけでなく50代前半も多かった。うち今後も専門医を取得する予定のない医師は67.7%にのぼった。

取得すべき専門医資格についての考え方は「自分の専門に特化した資格のみでよい」が57.1%と過半数を占めた。新専門医制度は資格維持の要件が厳しいことを理由に挙げる回答が目立った。それに対し、「専門に関連する資格も取得するほうがよい」(26.3%)の回答者は、「消化器外科が専門だが、抗癌剤治療などの化学療法、放射線療法の癌治療学会や緩和治療の勉強も必要」(40代・大学病院)など具体的な考えを寄せる声が見受けられた。

専門医取得のメリットは「自らのスキルアップ」が最多(56.3%)で、次いで「患者からの信頼」(39.5%)、「他の医師からの信頼」(30.3%)だった。他に、転職時に有利なことや、スタッフからの信頼を得ることをメリットと考える医師も多かった。本来、国民へのわかりやすさを主眼とした新制度だが、医師の職場でのポジションにも好影響をもたらすことが期待されているようだ。

Q2 専門医資格を保有していますか?(n=357)
Q3 資格保有者の方、今後の取得意向は?(n=295)
Q4 資格非保有者の方、今後の取得意向は?(n=62)
Q5 取得すべき専門医資格についてどうお考えですか?(n=357)

フリーアンサー

  • 専門医維持の要件が厳しいため、本当に自分が専門にしているものしか維持ができない。(40代・大学病院)
  • 実際に、一般病院では、新たに専門医を取得することは不可能です。(60代・一般病院)
  • 診療の幅を拡げるため。Generalが求められやすい市場で自身の商品価値を上げるため。(30代・一般病院)
  • 開業医でいろいろな患者のニーズに対応しなければならない。専門領域に関連する資格は取得しておいた方が患者も安心する。(50代・開業医)
  • 診療の幅が広がるため、関連する専門医資格があれは取得するのが理想的。(20代・一般病院)
  • あまり自分にメリットがないが、持っていたほうがステータスになる。(50代・一般病院)
Q6 専門医資格のメリットは何だと思いますか? (複数回答)(n=357)

フリーアンサー

  • ある程度の知識や技術の保証にはなる。(40代・一般病院)
  • 仕事に対するモチベーションになる。(50代・一般病院)
  • 患者さんに説明しやすい。(60代・一般病院)
  • 現在の勤務先では専門医を取得しているか否かで給与に差が出ている。今後、家族を養ってメシを食っていくためによりよい環境で働くためには最低限1つはほしい。(20代・一般病院)
  • 若手の医師には専門医取得のための症例を集めることが、症例研究のためのデータ収集にもつながる。(40代・大学病院)
  • 難病や肝炎などの診断書を書くために専門医がないといけない。(30代・一般病院)
  • 一部のバイオが非専門医には処方できない。大問題である。(50代・一般病院)
  • 個人的なメリットは感じないが、病院のため。(50代・一般病院)
  • 医師のスキルについて、多少のスクリーニングにはなると思う。(40代・精神病院)
  • 病診、診診連携にも有用。(60代・開業医)
  • 給与などには反映されないので、自己満足の域を脱しない。(50代・療養病院)
  • 詳細と未来

地域偏在、診療科偏在、医療の質は、
新専門制度で「変わらない」と見る医師が多数

総合診療医の意義は認めつつ
立ち位置や実効性には疑問も

新専門医制度は基本領域+サブスペシャルティの「2階建て」方式である。基本領域は内科、外科、整形外科などの19領域で、回答者の56.9%は「今のままでよい」とした。一方、サブスペは「今のままでよい」が47.3%とやや少なく、「わからない」が30%を超えた。専門医機構は消化器内科、循環器内科、心臓血管外科など23領域をサブスペに認定したが、さらに90以上の学会が認定を希望し、混沌とした状況になっているからかもしれない。

基本領域に新設された総合診療専門医については、回答者の意見が大きく割れた。超高齢社会に突入している今、総合診療ができる医師の必要性を訴求する意見がある一方、「定義があいまい」「誰が教えるの?」という声もあった。

また、新制度は、専門医資格の乱立を是正するためのほか、途中から医師の地域偏在や診療科偏在の改善も目的に加えられた。しかし、地域偏在が「改善されると思う」と回答した医師はわずか2.2%。診療科偏在も同数だった。どちらも「変わらないと思う」が過半数近かった。医療の質についても「変わらないと思う」という回答が過半数を占めている。

今後の専門医制度については「医師の育成を第一の目的に設定して欲しい」(30代・大学病院)という声が寄せられた。当事者である医師を中心に据えてこそ、制度が効果的に回るはずだろう。

Q7 基本領域の内容や数についてどう思いますか?(n=357)

フリーアンサー

  • なぜ含まれるのか理解できない領域がある。(40代・大学)
  • 細分化されすぎている。10領域で十分。(30代・一般病院)
  • 基本領域というが、どのように決めたか疑問がある。(50代・精神病院)
  • あまり複雑になりすぎると形だけのものになりがち。少なくしっかりとがよい。(50代・一般病院)
  • リハビリテーション科が基本領域に入ってありがたかった。(20代・一般病院)
  • 患者側からするとより細分化したほうがわかりやすいのかもしれない。(50代・医院勤務)
  • 現状維持でいいと思います(30代・一般病院)
Q8 サブスペシャルティの内容や数についてどう思いますか?(n=357)

フリーアンサー

  • 基本領域に輪をかけて無法状態で、整備には相当の時間が必要。(60代・一般病院)
  • サブといっておきながら必須というのはおかしい。(20代・一般病院)
  • これ以上細分化する必要なし。患者にも何もメリットなし。(60代・一般病院)
  • 学会のパワーバランスでサブスペは残っているような気がする。(50代・一般病院)
  • 乱立は避けるべき。(40代・一般病院)
  • 必要なものが含まれていない。(40代・大学病院)
  • 国民に知らせる意義がある領域であれば問題ない。(60代・一般病院)
Q9 新専門医制度の研修方法(主にプログラム制)についてどう思いますか?(n=357)

フリーアンサー

  • 地方研修など、正直、医療体制や国のためであって、専門医になるのに必要だと思わない。医師のためになっていない。(30代・大学病院)
  • 研修側、指導側を含めて書類が煩雑。もっと簡略化してほしい。本質を得ていない。(20代・一般病院)
  • 専門医制度がなかった時代に若かった人は専門医がとれないシステム。(50代・一般病院)
  • 研修医で様々な科を回るのに、さらにまた回って、無駄だと思う。ジェネラリストを作りたいなら、ジェネラリストを希望する人だけが回ればよい。全員に強制する意味がわからない。(30代・一般病院)
  • 内科では、総合内科専門医を取って、サブスペシャルティを取得するのに時間がかかるのが不満。(50代・大学病院)
Q10 新設の「総合診療専門医」についてどう思いますか?(n=357)

フリーアンサー

  • かかりつけ医の増加につながる。(50代・一般病院)
  • 定義があいまい。(50代・一般病院)
  • 高齢者で合併症が多い方も多く、新設には賛成です。(30代・一般病院)
  • あまりに守備範囲が広すぎるのではないか。(60代・開業医)
  • 内科とのすみわけが明確にできていない気がする。へたすると内科と共倒れすると思う。(30代・大学病院)
  • 誰が教えるの? そもそも先に教える人を育てよ。(30代・精神病院)
  • 総合診療の専門医は、なれそうで決してなれないと思う。(50代・医院勤務)
Q11 指導医の方、従来の研修と比べて良い点、悪い点などをお聞かせ下さい。
  • 濃厚な研修が受けられるが、時間に制限があり、もっと積極的な参加が必要。(40代・一般病院)
  • 研修体制は整ってきているが、自由度が低く個々のニーズに合わない点もある。(40代・一般病院)
  • 以前の集団指導に比して、man to man方式の指導体制は評価できると思うし、指導医の資質も問われます。(60代・一般病院)
  • 論文作成が必須になったのがよい。(40代・一般病院)
  • 手間が増えた。指導医の業務はなんらかの業績としないのか。(50代・一般病院)
  • 指導医としては、やっていることは同じ。評価の仕方が変わっただけ。(60代・一般病院)
  • 雑用が増えたけど、教えられた方はよく学んでいますね。(50代・一般病院)
Q12 新専門医制度で医療の質は上がると思いますか?(n=357)

フリーアンサー

  • アルバイトのみの医師が減るので、質は多少上がるかもしれないが、全体的に見たら微々たるものだと思う。(40代・大学病院)
  • 医療の質は医師個人の努力の面が大きい(50代・一般病院)
  • 専門医の維持に必死になって、かえって医療がおろそかになる気がする。(60代・一般病院)
  • 資格基準を厳しくすれば質は上がる。(60代・療養病院)
  • 専門医の縛りで、医療が萎縮する。(50代・一般病院)
  • 今まで通り専門治療を行っている人に関しては変わらないが、とんでも医師は除外できる可能性がある。(30代・一般病院)
Q13 新専門医制度によって地域偏在はどうなると思いますか?

フリーアンサー

  • そもそも、専門医制度を使って地域偏在を改善しようとすること自体が間違い。(30代・大学病院)
  • 一度都市部の施設へ所属したら、過疎地へ行こうとは思わない。専門性が高ければなおのこと。(50代・一般病院)
  • 研修施設が都会に集中しており、偏在は進まざるを得ない。(50代・一般病院)
  • 私の勤務する地方の病院では、常勤医も研修医も実際に減りつつある。(50代・一般病院)
  • 強制的に配置する以外に偏在を解消する方法はない。(50代・精神病院)
  • 研修できない病院は淘汰される。(50代・療養病院)
Q14 新専門医制度によって診療科偏在はどうなると思いますか?

フリーアンサー

  • 更新しやすい専門医に流れる可能性がある。(50代・リハビリ病院)
  • QOLのよい科の人気は、ますます進みそう。(40代・一般病院)
  • 少し増える科があるかもしれないが、減る科もあって、ほぼトントンでは。(60代・一般病院)
  • それなりにシーリングが働けば、それなりに是正はされると思う。(30代・大学病院)
  • あまり関係ないのでは。収入や待遇、負担などの方が大きい。(50代・一般病院)
  • 新制度で、診療科の選択が変わるはずがない。(60代・一般病院)
Q15 今後、新専門医制度がどうなっていって欲しいですか?
  • 地方在住の医師でも更新が不利にならないようにしてください。(50代・精神病院)
  • 質が担保されていることが患者にわかりやすいこと。将来的には専門医を持つ領域だけを標榜可能とする。(40代・一般病院)
  • 元に戻して自然にまかせる。地域偏在は報酬もしくは税制で管理。(50代・一般病院)
  • 必要症例数を減らしてほしい。非侵襲手術が増えておりそれに対応してほしい。(30代・一般病院)
  • オンライン受講も単位として認めてほしい。介護や育児中の遠方住まいの医師が大変すぎる。(40代・一般病院)
  • 専門医を人数制限して価値を高めるべきである。(60代・療養病院)
  • プログラムに準拠するものではなく、個人個人に症例やレポートを記録する仕組みにして、様々な施設で経験を積むことができるものにすべき。(20代・一般病院)
調査概要
「医師専用コミュニティサイト「MedPeer」調べ」
◆調査日:2019年11月 ◆調査対象:MedPeer会員医師
◆有効回答数:357人(男性86.6%/女性13.4%)