【寄稿】医療人事 第二回 人事管理はなぜするのか?何を基軸に何を評価するのか?

第一回目は、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、「働き方改革」について考えを述べた。
今回は、人事管理はなぜするのか?何を基軸に何を評価するのか?について考えたい。

多摩大学医療・介護ソリューション研究所
副所長・シニアフェロー
公益財団法人日本生産性本部認定
経営コンサルタント
幸田 千栄子
輸送用機器メーカーにて人事・人事企画・採用・教育・女性活躍推進・秘書などに従事。2000年公益財団法人日本生産性本部経営コンサルタント養成講座を修了し、公益財団法人日本生産性本部経営コンサルタントとして、各種事業体の診断指導、人材育成の任にあたる。2009年5月から1年間、サービス産業生産性協議会スタッフとしてコンサルタントと平行して任にあたり、サービス産業の生産性向上PJに参画すると同時に顧客満足度・従業員満足度調査開発・設計を行う。

幸田 千栄子氏 写真

人事管理はなぜするのか?

組織は経営理念やビジョンを達成するために、職員一人ひとりが所属する組織の理念やビジョンに沿って入職から退職まで、最大限に能力・実力を発揮して組織に貢献していただくことが重要である。

人事管理の目的は、経営視点と人材視点の短期・長期の視点で考える必要がある。まず、経営の短期視点では、成果によって戦略達成の貢献を評価し、戦略を達成する能力を高めることである。どの専門職も重要であるが、特に医師には各人の専門性や経験により、多くの患者を診て患者満足度を高めるなどの実績をあげることが期待される。長期視点では人的資源を充実し有効に活用するため、すなわち院内の医師の力を更に伸ばし最大限に発揮してもらい、必要であれば採用し組織戦略の達成のために貢献をしてもらうことである。

次に人材の短期視点では、わかりやすくオープンでフェア(公正)な評価・処遇を提供し、医師の働きがいを創出し福祉の充実を図ることである。長期視点では、キャリア開発によって人材としての成長を支援し、医師の所属価値・職員満足を高めることである。医師は臨床研修制度により2年以上の臨床経験を経てキャリアをスタートさせるが、その後の臨床経験をどのように提供し育成するかということであり、それによって満足度が上がり所属する病院で働き続けたいというリテンションの目的もある。

何を基軸に何を評価するのか?

人事制度は人事管理を「思いつき」や「個人の好み」、「場当たり的」に行うのではなく、「経営目的の実現・医師の所属価値の向上」を図るために、計画的かつ、合目的的な理念・価値基準にもとづいて、全体として一貫性のある人事管理を行うための基準や運営の仕組みのことである。ビジョンや組織の状況は組織によってそれぞれなので、人事制度も組織によって違う。

人事制度には等級制度、評価制度、賃金制度(給与・賞与)、退職金制度、能力開発制度などがあるが、ここでは何を基軸に人事管理を行うか(等級制度)、何を評価するのか(評価制度)について取り上げる。

(1)何を基軸に人事管理を行うか

組織が医師に期待することをレベルに応じて区分したものが等級であり、等級制度とはその期待レベルに応じて医師を格付けする制度である。等級が基準となって、処遇(賃金、職位)、評価、能力開発などが行われる。

等級制度には、人基準と仕事基準がある。人基準は、年齢・勤続・学歴・能力といった属人的要素を基準とするものであり、現在では年齢・勤続の要素を基準とする組織は少なく、代表例としては能力を基準とした職能等級制度がある。

職能等級制度の等級基準は『能力』である。また、能力を保有しているだけでなく発揮された能力を評価することが多い。これらを能力段階で評価し等級に格付けする。

仕事基準は、職務・職位・役割といった属職的要素を基準とするものであり、代表例としては職務等級制度、役割等級制度がある。役割等級制度は、組織における役割を階層構造として設計し等級化したものであり、多くの場合、役職位(ポスト)をそのまま等級化、診療部長などといった役職を等級化する。

等級制度の機能は、医師が、現在および将来にわたる医師としての職業生活の展望を描くことができ、医師の動機付けや組織に対する帰属意識の高揚を図ることができ、人事管理の合理的運用や納得性を得ることができることである。

それぞれメリット・デメリットがあるので、人を基軸にするのか仕事を基軸にするのかを、それぞれの組織が自組織の状況を良く見て自組織にあったものを設計している。自組織の等級制度をまず理解していただきたい。人事制度の中では基本となる制度である。

(2)何を評価するか

何を基軸に人事管理するかを理解いただけたら、次は何を評価するかである。評価制度の目的の1つ目は組織目的の実現である。評価は組織が医師に期待する等級基準を十分に満たしているかどうかを見るものであり、一方で医師は組織の期待に応えることによって組織目的を実現するということを狙いとしている。

2つ目は人材の育成である。基準に照らし合わせて、医師本人の気づきを促し、また上司の部下に対する育成ポイントを明確にし、適切な指導・育成を促すことを狙いとしている。

3つ目に公正な処遇の実現である。公正な評価とその活用により、処遇の透明性を高め、納得性を確保することによって、医師のモラールを高めることを狙いとしている。

次に評価する成果とプロセスについて述べる。

①成果

アウトプット(成果)を評価する。成果は、収益・利益向上やコスト削減などお金に関することや病床稼働率などの定量的なものと、「こういう状態になる」と結果を状態で示す定性的なものがある。医師は成果が見えやすく数値で表すことができる業務のため、成果評価はわかりやすい。

組織の達成したい目標から、各部署に割り当てられた目標を各等級に応じて個人までに落とし込む目標管理制度を導入することもある。組織(法人・病院)目標と各組織が連携して取り組めるからであり、チーム医療においては、チームの目標をメンバーにブレイクダウンして設定することでメンバーが同じ方向を見た上で、それぞれの目標に向かって進むことができる。

②プロセス

職能評価制度では、等級ごとに期待する能力に照らし合わせて職務を遂行する能力を評価する。役割評価制度では、等級ごとに期待する役割に照らし合わせて業務遂行状況や出来栄えを評価する。加えて、取り組み姿勢も含めて評価する(資料1)。それぞれ、医師に期待する等級基準を基準書として作成し、医師に周知する。

医師は数値で表しやすい業務のために成果だけを追い求めすぎて、プロセスをおろそかにしないようにしたい。プロセスをおろそかにすると短期的には成果が上がるが長期的に成果が上がらなくなる。

また、取り組み姿勢は、患者は元よりスタッフに対する対応も含め大変重要である。チーム医療を進める上では必須なことであり上位職になればなるほど職員をまとめる意味で重要になる。「患者さんからの評判も良く成果は出してくれるが周りのスタッフが継続しない」などということを伺うことがある。医師の業務は医師が関連する他職種に依頼・指示をし、医療業務がスタートすることが多く、かつその現場に上司と同席することは少ないという特徴がある。従って、上司が評価する材料にするという意味と医師自身が自分の仕事の進め方を振り返る意味でも、「360度評価」(関わるスタッフに評価をしてもらい、評価結果に直接反映或いは上司評価時に参考にする)を実施する組織もある。

また、評価目的の1つである人材育成を達成するには上司が部下に評価した内容、すなわち評価期間の成果・プロセス・取り組み姿勢についてフィードバックし、上司と部下がよく話し合い部下が何を評価され何が不足しているのかを理解して、次期どのように取り組むかを話し合うのは必須である。

組織に属して医師として働く上では、組織の理念・ビジョンに共感し、人事制度を理解し何を軸に何を期待されているかを理解して自身のキャリアをより良いものにしていただきたい。

資料1● 役割評価制度
※著者作成