Medical English 特別講座「紹介状での英語表現」

普段の医療現場で作成する紹介状。必要なのは日本人だけではなく外国人もそうです。
今号では、英文で作成する場合の表現を、主訴・現病歴・既往歴・身体診察に分けてご紹介します。

監修 押味貴之
国際医療福祉大学 医学教育統括センター准教授
医師/日本医学英語教育学会理事

紹介状での英語表現 1
主訴

外国人患者さんが増加する中、日本の医療機関でも英文で診断書や紹介状を書く機会が増加しています。
ただその際に日本語の表現をそのまま英訳すると、海外の医師には読みにくい紹介状になってしまいます。
そこで今回は海外の医師にも伝わる紹介状での英語表現をご紹介します。

患者さんが医療機関を受診した理由である「主訴」ですが、状況によっていくつかの定型表現があります。今回はこの主訴に関する定型表現をいくつかご紹介します。

①.「主訴」の基本的な定型表現

「主訴」chief complain(もしくは chief concern)は以下の4つの項目を含めて1つのセンテンスで表現します。

Age: 年齢
Sex: 性別
Duration of the problem: 主訴の持続時間
Reason for presenting: 主訴

ですから基本的な定型表現は下記のようになります。まずはこれをしっかりと覚えましょう。

The patient is a/an (age)-year-old (man/woman), who presented with a (duration)-history of (symptom/symptoms).

具体的にはこのようになります。

The patient is an 82-year-old man, who presented with a 2-day history of chest discomfort.

ここでいくつかのポイントがあります。年齢の数字が母音で始まる場合には a 82-year-old ではなく、an 82-year-old のように an を使います。またここでは年齢を形容詞で表現しているので、year を 82-years-old ではなく、82-year-old のように単数形にすることに注意しましょう。主訴の持続時間の表現には例文のように a 2-day history of chest discomfort と表現する以外にも、単純に 2 days of chest discomfort と表現することも可能です。さらに18歳未満の子供には man や woman ではなく、boy や girl が使われます。英語論文のバイブルである AMA Manual of Style では厳密に「0歳から12歳までが boy と girl であり、13歳から17歳までは adolescent boy と adolescent girl を用いる」と定義していますが、慣例的に「18歳未満は boy と girl」として表現しても問題はないでしょう。また例文にある presented with 以外にも complains of もよく用いられ、c/oという略語も一般的です。この他にも鑑別に有用と思われる場合には ethnicity:人種や occupation: 職業といった項目を入れる場合もあります。

The patient is a 62-year-old Caucasian unemployed man, who presented with a 3-day history of melena.

The patient is a 26-year-old African American male college student, who presented with a week of dyspnea.

いずれにしてもここで紹介した表現が雛形表現となりますので、まずはこれをしっかりと覚えておきましょう。

②.既往歴がある場合の定型表現

では次に高血圧や糖尿病といった「既往歴」がある場合の主訴の定型表現をご紹介しましょう。

The patient is a/an (age)-year-old (man/woman) with (pertinent past medical history), who presented with a (duration)-history of (symptom/symptoms).

具体的には以下のようになります。

The patient is an 82-year-old man with hypertension and diabetes, who presented with a 2-day history of chest discomfort.

ここでのポイントは「主訴と関連する既往歴 pertinent past medical history しか書かない」ということです。あくまでも今回問題となっている主訴のリスクファクターとしての既往歴にとどめるという点に注意してください。

また産婦人科領域では GPAC が汎用性も高く紹介状では頻出です。Gは妊娠回数、Pは出産回数、 Aは中絶回数、そしてCが帝王切開の回数で、以下のように使われます。

The patient is a 31-year-old G1P1A0C1 woman presented with a 3-day history of uterine bleeding and pelvic pain.

③.紹介受診や搬送の場合の定型表現

最後に患者が紹介受診した場合や搬送されてきた場合の定型表現をご紹介します。

The patient is a/an (age)-year-old (man/woman), who was (referred/transferred) to our department for further evaluation and treatment of (symptom/sign/disease).

具体的には下記のようになります。

The patient is an 81-year-old woman, who was referred to our department for further evaluation and treatment of 3 days of gross hematuria.

The patient is a 52-year-old man was transferred to our department for surgical treatment of subarachnoid hemorrhage.

「紹介受診」には to be introduced ではなく、 to be referred という表現が使われます。ですから「紹介状」も introduction letterではなく、referral となりますのでご注意を。「搬送」や「転院」には to be transferred という表現が使われます。また日本語の紹介状に頻出の「精査加療のため」には for further evaluation and treatment という表現が当てはまります。

紹介状での英語表現 2
現病歴

外国人患者さんが増加する中、日本の医療機関でも英文で診断書や紹介状を書く機会が増加しています。
その際に日本語の表現をそのまま英訳すると、海外の医師には読みにくい紹介状になってしまうので注意が必要です。
そこで今回は海外の医師にも伝わる紹介状での英語表現をご紹介します。

英文での診断書や紹介状ではこの「現病歴」 History of Present Illness (HPI) が最重要視され、米国の医学部では医学生や研修医に HPI で1ページ程度の記載をするように指導するのが一般的です。ここではこのHPIの効果的な記載について、4つのポイントに沿ってご紹介します。

①.Chief complaint as the topic sentence :
「主訴」をトピックセンテンスにする

日本の診断書や紹介状では「主訴」をChief Complaint (CC) という独立した項目として書き始めますが、英文での診断書や紹介状では「主訴」を HPI 「現病歴」の最初の文(トピックセンテンス)として、HPI の中に組み込んで記述するのが一般的です。

HPI : The patient is an 82-year-old man, who presented with a 2-day history of chest discomfort...

②.Chronology :
時系列に沿って記述する

HPIをChief Complaint「主訴」で書き始めたら、その主訴となった症状の経過を chronology「時系列」に沿って記述していきます。

HPI : The patient is an 82-year-old man, who presented with a 2-day history of chest discomfort. The patient had been in his usual state of health until 2 days ago, when he first noticed an acute onset of sharp anterior pleuritic chest pain.

Chronology「時系列」に沿って記述する際に重要なのが「時期」に関する表現です。以下の表現はHPIではよく使われるので、是非活用してください。

on the following day: 次の日に
over the past ( ) days: この〜日間で
( ) days after the initial visit: 初診の〜日後に
( ) days prior to admission: 入院の〜日前に
on admission: 入院時に
during the follow-up sessions: 外来フォロー中に

③.Sufficient detail using semantic qualifiers (SQ) :
十分な情報をSQを用いて記述する

HPIでは主訴となる症状を「モレなくダブりなく」十分に記述する必要があります。特に主訴が何らかの「痛み」pain であれば、有名な pain’s OPQRST を使えば「モレなくダブりなく」十分な情報を記述することが可能です。

Onset: 発症
Provoking & Palliating factors: 増悪 & 緩和因子
Quality: 性質
Region & Radiation: 部位 & 放散
Severity: 程度
Timing: 時期/時間

ここで重要なのが semantic qualifiers (SQ) を使うということです。このSQは直訳すると「医学的な意義を与えてくれる表現」というものです。さらにわかりやすく言うと「患者が使った表現を医学的な表現に言い換えたもの」というものです。例えば頭痛の患者さんが “pounding/throbbing”「ズキズキする」と表現したならば偏頭痛 migraine を想起させる “pulsating” に、“stabbing/piercing” 「刺されるような」と表現したならば群発生頭痛を想起させる “penetrating” といった医学の教科書に載っているような表現に言い換えることが求められるのです。このようにSQを使って記述すれば、その診断書や紹介状を読む医師がしっかりと鑑別疾患を想起できるようになるのです。

④.Associated symptoms :
鑑別疾患の関連症状の有無を記述する

最後のポイントが「HPIの中で主訴から想起される鑑別疾患の関連症状の有無を記述する」ということです。例えば主訴が chest discomfort「胸部不快感」の場合、鑑別疾患の一つである虚血性心疾患には chest discomfort 以外にも様々な関連症状があります。ここではそういった関連症状を医学英語で記述するように心がけましょう。例えば「嘔吐」は vomiting ではなく emesis で、「発汗過多」は abnormal sweating ではなく diaphoresis で表現しましょう。

英文のHPIではこういった関連症状を pertinent items と表現し、重要視しています。たとえこういった関連症状が「認められない」場合でも The patient has no emesis or diaphoresis. のように「認められない」と記述することが重要です。このような記述は pertinent negatives と表現され、その HPI を読んだ医師がしっかりと診断できるかどうかを左右する重要な要素となります。

以上の4つのポイントを踏まえてHPIを記載すれば、皆さんの英文診断書/紹介状はかなり読みやすいものとなります。次は「既往歴」を中心に、HPI以外の執筆ポイントをご紹介します。

紹介状での英語表現 3
既往歴

外国人患者さんが増加する中、日本の医療機関でも英文で診断書や紹介状を書く機会が増加しています。
前の「現病歴」に続き、今回は「既往歴」 Past Medical History を中心に、HPI 以外の問診結果における英語表現をご紹介します。

英文での診断書や紹介状では「現病歴」 History of Present Illness (HPI) に引き続き、Review of Systems (ROS), Allergies, Medications, Past Medical History (PMH), Past Surgical History (PSH), Family History (FH), and Social History (SH) の7項目に関して述べることが一般的です。ここではそれぞれの項目においてよく使われる英語表現をご紹介します。

「システムレビュー」 Review of Systems (ROS)

ここでは HPI で記載しなかった関連症状の有無に関して述べます。日本では「システムレビュー」という表現が一般的ですが、英語では Review of Systems (ROS) という表現が一般的です。また Systems のように必ず複数形になるのでご注意を。このROSでは主訴とは「一見」関連の無いように思われる systems に関して述べるのですが、既に HPI で記載してしまって新たに追加する必要がない場合には “Review of systems is negative except as mentioned in the history of present illness.” か、より簡略化した “Review of Systems: Negative except as above.” のように記載しましょう。

「アレルギー」 Allergies

アレルギーの既往がある場合には、具体的にどのような反応があったのかも記載します。

“The patient has known allergies to penicillin, and it caused a skin rash 3 years ago.”

“The patient developed a skin rash approximately 3 years ago after receiving penicillin and carries the diagnosis of penicillin allergy.”

またアレルギーの既往がない場合には “The patient has no known allergies.” や “The patient has no known drug allergies.” という定型表現を使いましょう。それぞれの頭文字を使って前者は NKA、後者は NKDA と表現され、これら略語は “Allergies: NKDA” のように使われます。

「薬」 Medications

内服薬などを記載する際には「処方箋」 prescription と同様に「用法」 administration と「用量」dosage も記載します。「用法」では皆さんお馴染みの「1日2回」を表す “bid” や「頓服」を表す “prn” といった略語を使っても問題ありません。薬の使用が全くない場合には “The patient takes no medications or nutritional supplements.” のように記載しましょう。

「既往歴」 Past Medical History (PMH)

既往歴では主訴に関連する「特記すべき既往歴」だけを記載しましょう。その際には “Her past medical history is significantor remarkable) for 3 years of hypertension.” のように significant や remarkable といった「特記すべき」を意味する形容詞が便利です。これらとは逆の意味の insignificant や unremarkable という形容詞を使えば、先ほどと同じ文章も “Besides a 2-year history of hypertension, her past medical history is insignificantor unremarkable).” のように表現できます。ですから「特記すべき既往歴はない」という場合には、単純に “Her past medical history is insignificantor unremarkable).” と表現できます。

「手術歴」 Past Surgical History (PSH)

手術歴を動詞を使わずに記載する場合は、 “Laparoscopic appendectomy at the age of 12” のようになりますが、動詞を使う場合には “She underwent (or had) a laparoscopic appendectomy at the age of 12.” のように to undergo や to have を使いましょう。

「家族歴」 Family History (FH)

家族歴も既往歴と同様に「特記すべき家族歴」だけを記載します。既往歴と同様、significant や remarkable などを用いて “Her family history is significantor remarkable) for diabetes mellitus in her father.” のように表現します。またご家族が何らかの疾患で亡くなっている場合には “Her maternal grandfather died of myocardial infarction at age 54.” のように「お亡くなりになる」を意味する to pass away ではなく、「死亡する」を意味する to die という動詞を使いましょう。ちなみに「〜歳で」の英語としては at the age of (年齢) と at age (年齢)の2つを覚えておくと良いでしょう。

「社会歴」 Social History (SH)

社会歴では smoking history, occupation, drugs, and alcohol history などを記載します。その中でも smoking history には pack per day (PPD) と pack years という英語圏独特の表現があります。前者は “The patient has smoked one PPD for 20 years.” のように使います。後者は「1日に吸うタバコの箱の数に喫煙年数をかけたもの」として計算しますので、“The patient has smoked one PPD for 20 years.” は “The patient has 20 pack years.” のようにも表現できます。いずれにしても日本で使われている Brinkman Index は海外ではそれほど使われていませんのでご注意を。

紹介状での英語表現 4
身体診察

外国人患者さんが増加する中、日本の医療機関でも英文で診断書や紹介状を書く機会が増加しています。
これまで「現病歴」 History of Present Illness (HPI) や「既往歴」 Past Medical History を中心に、問診結果における英語表現をご紹介しましたが、今回は「身体診察」 Physical Examination でよく使われる略語表現をご紹介いたします。

「身体診察」 Physical Examination には様々な診察が含まれますが、英語圏では下記の10項目が Physical Exam の雛形としてよく使われます。

1. General Appearance (GA) 「全身の様子」 および Mini-Mental State Exam (MMSE) 「精神状態短時間検査」
2. Vital Signs (VS) 「バイタルサイン」
3. HEENT 「頭頸部 (head, eyes, ears, nose and throat の略。「エイチ・イー・イー・エヌ・ティー」と発音する)」
4. Neck Exam (Neck) 「頚部」
5. Cardiovascular Exam (Heart) 「心血管系の診察」
6. Pulmonary Exam (Chest) 「胸部(呼吸器)の診察」
7. Abdominal Exam (Abdomen) 「腹部の診察」
8. Neurological Exam (Neuro) 「神経系の診察」
9. Extremities 「四肢の診察」
10. Skin 「皮膚の診察」

ここではこれらの項目における代表的な略語表現をご紹介しましょう。

General Appearance (GA) 「全身の様子」

NAD
AA&Ox4

NADは The patient is in no acute distress. の略です。この acute distress は「すぐに処置が必要と思われる見た目」を表し、NADは「すぐに処置が必要ではないと思われる見た目」、つまり日本語の「全身状態良好」と同じように使われる表現です。

AA&Ox4 は awake, alert, and oriented times four の略です。awakeは「覚醒」、alertは「意識清明」の意味になります。oriented は「見当識」を表し、「自分の名前」「今日の日付」「今いる場所」「その場所にいる理由」の4つを述べることができれば oriented to person, time, place, and events、つまり oriented times 4 と表現されます。

HEENT(頭頸部)

NCAT
PERRLA
EOMI

NCATは「頭部診察」 head exam において使われるnormo cephalic & atraumatic の略語です。前者は「正常な頭部の形状」、後者は「外傷なし」を意味し、日本語の「頭部外傷なし」と同じように使われます。

PERRLAは「視神経」 optic nerve と「動眼神経」 oculomotor nerve の診察所見で、「パーラ」のように発音します。これは The pupils are equal and round, react to light and accommodation を表し、特に react to light and accommodation とは、「光を当てても目を寄せさせても(輻輳させても)瞳孔が反応して小さくなる」を意味します。

EOMI にも略語として「イーオーミー」という決まった発音方法があります。これは The extraocular muscles are intact の略語で、「外眼筋は損なわれていない」という意味になります。

Cardiovascular Exam (Heart) 「心血管系の診察」

RRR, nl S1/S2, no m/r/g

「心臓の聴診」 heart auscultation にはいくつかの定型表現がありますが、米国でよく使われるのがこの略語です。これは Regular rate and rhythm, normal S1 and S2, no murmurs, rubs, or gallops を表します。特に RRR は「心拍数は正常範囲内で、尚且つ不整脈なし」を意味するとても便利な略語です。

Pulmonary Exam (Chest) 「胸部(呼吸器)の診察」

CTAB, no w/r/c

まだ日本で手書きのカルテが主流だった頃、「肺の聴診」 lung auscultationの所見の定番表現は “no rales” でしたが、英語圏ではより詳細な Clear to auscultation bilaterally, no wheezes, rhonchi, or crackles という表現が使われます。皆さんご存知の通り、wheezes は「下気道の閉塞に伴う喘鳴」、rhonchi は「気道の粘液によって生じるイビキ音」、そして crackles が「肺胞に生じるラ音」を意味します。

Abdominal Exam (Abdomen) 「腹部の診察」

DRE: BRBPR

最後に「腹部の診察」の一部としての「直腸診」 digital rectal examination (DRE) での表現をご紹介します。このDREでは「前立腺」 prostate gland の硬さや 「直腸静脈瘤」rectal varices、「痔核」hemorrhoids、そして「裂肛」 anal fissures の有無などを確認しますが、「鮮血」が認められる場合には Digital rectal examination revealed bright red blood per rectum として DRE: BRBPR のように表現します。特にこの BRBPR は「鮮血便」を表す略語として、通常の「血便」 hematochezia とは区別して使われます。