コロナ収束で普及の正念場?それでもオンライン診療に期待できる理由

  • 記事公開日:
    2024年01月10日

2018年に保険適用となり、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に注目されたオンライン診療。現在は対応医療機関やオンライン診療の実施数は微増の状態が続き、大きな動きとはなっていない。しかし、国際的にも新たな診療スタイルとして定着する流れであるのは明白だ。政策と実務の両面に詳しい専門家に今後のオンライン診療への期待について聞いた。

コロナ禍で注目されたオンライン診療、その今後を考える

2022年度から初診での利用も恒久化

日本のオンライン診療は、1990年代にテレビ電話などを使って始まった遠隔診療に端を発する。その後、厚生労働省は2015年に医師法20条「無診察診療の禁止」の解釈として、遠隔医療の対象は「離島、へき地の患者に限定されない」ことなどを明確化。オンライン診療を行う法的な整備が進んでいった。

さらに2018年度に厚生労働省から「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が出されたほか、保険診療で行えるようにもなった。新型コロナウイルス感染症拡大を契機とした適用条件緩和で一気に進展を見せたが、厚生労働省「令和4年10月~12月の電話診療・オンライン診療の実績の検証の結果」を見ると、オンライン診療対応可能な医療機関数は2020年4月、5月で大きく伸びた後は微増にとどまる。ただ、2021年4月にオンライン診療研修の受講が必須となり、2022年度には初診からのオンライン診療が恒久化されたように、政府の方針もこの流れを後押しするものであるのは確かだ。

2016年に自らの医院でオンラインでの診療を開始し、厚生労働省や日本医師会のオンライン診療に関する検討会等の委員も務めている黒木春郎氏は「単に外来診療の置き換えと捉えているだけでは、大きな盛り上がりにつながらないだろう」と言う。

「日本のプライマリ・ケアの質は高く、多くの医師や患者が対面診療で満足している面もあります。しかし、オンライン診療は情報通信機器を活用して医療を提供する遠隔医療の一部であり、それは医療DXという将来像につながる、といった観点から新たな価値を提示する必要があります」

こどもとおとなのクリニック パウルーム院長 黒木春郎氏
こどもとおとなのクリニック パウルーム院長 黒木春郎氏/1984年千葉大学医学部卒業後、同大学小児科学教室入局。大学病院および関連病院での診療、千葉大学医学部文部教官などを経て、2005年外房こどもクリニック(千葉県いすみ市)開設。院長に就任。2016年にオンラインでの診療を開始。厚生労働省や日本医師会のオンライン診療に関する検討会等の委員も務める。2023年4月から現職。

オンライン診療の先にある医療の将来像

では、医療の将来像の中でオンライン診療はどんな役割を担うのだろうか。厚生労働省の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(2018年3月発表。2023年5月改定版が最新)では、オンライン診療の基本理念を以下のように示している。

オンライン診療は

①患者の日常生活の情報も得ることにより、医療の質のさらなる向上に結び付けていくこと

②医療を必要とする患者に対して、医療に対するアクセシビリティ(アクセスの容易性)を確保し、よりよい医療を得られる機会を増やすこと

③患者が治療に能動的に参画することにより、治療の効果を最大化すること

を目的として行われるべきものである。

黒木氏はこの理念について「アメリカで『医療の将来像を示す4つのP』といわれる、Personalization(個別化)、Prediction(予見)、Prevention(予防)、Participation(参加)とも重なる」と指摘する。

「患者の生活背景を知り、患者も治療に積極的に参加して、医療を個別化・最適化して質の向上を図る。それは病気の予見・予防に役立ち、健康寿命の延伸にもつながるでしょう。オンライン診療の先には、そうした医療の将来像が描かれているのです」

自宅を病院にできるオンライン診療の強み

対面とほぼ変わらない診療ができる時代

なお前出の指針では、オンライン診療と対面診療を組み合わせることが原則とされているが、両者の差異など注意点はあるだろうか。オンライン診療の経験が豊富な黒木氏は、「オンラインでできないのは触診や採血・点滴など患者の体に触れることくらい。対面診療が必要な場面もありますが、診療自体はどちらもそう変わらない」と断言する。

「画面から呼吸状態が分かり、緊急判断もできるはず。例えば日本小児科学会ではコロナ禍に小児の緊急度を判断する指針としてPAT(Pediatric Assessment Triangle)が提言されましたが、これは対面でもオンラインでも対応可能です。また、緊急時は対面に移行せず救急病院への紹介が妥当でしょう」

そのほか器材があればオンラインでの聴診も可能で、血糖値も取得できる。心電図をとるウエアラブルデバイスも活用されており、コロナ禍では酸素飽和度モニターなどで自宅待機の患者の容体がモニタリングされた。医療機器が発達すればより詳細なデータも取得可能になり、診断精度はさらに高まるだろう。

ただ、オンラインでのコミュニケーションを円滑にするために

・互いの通信環境が良好な環境で行う

・患者の全身が見えないので話を詳しく聞く・伝える

・会話の表情を豊かにする

といった配慮は必要だろうと黒木氏。

「コロナ禍でWeb会議などが一般化し、患者側でもオンライン診療に対する抵抗が少なくなっています。当院では新型コロナウイルスやインフルエンザで陽性になった方の治療とフォロー、容体が安定した方の初診と再診以降、メンタルヘルスの問題で外出が難しい方など、さまざまなケースでオンラインと対面を使い分けて診療しています」

※PAT(Pediatric Assessment Triangle)/Appearance(外観)、Work of Breathing(呼吸状態)、Circulation to Skin(皮膚色)を評価し緊急度を判断する

入院時と同様、連日の診療も可能に

前出の指針に「患者の日常生活の情報も得ることにより」とあるように、患者が生活する場が診療を受ける場になる点もオンライン診療の特徴だ。黒木氏は新型コロナウイルス感染症の患者を診ているとき、それを実感したという。

「毎日同じ時刻に患者の容体の変化を診ていると、まるで病棟を回診するように感じました。海外では、生活の場にいる患者に医師や看護師、各専門職がオンラインで対応し、自宅を病院のようにするHome Hospitalizationの概念も提唱されています。私自身もコロナ禍を経て、オンライン診療は外来、入院、在宅に次ぐ4つめの診療形態だと再認識しました」

オンライン診療は医療DXの一環として、患者がよりよい医療を得られる機会を増やし、医療の質を向上させるのが目的。「ただ、オンライン診療は通信や映像伝送など医療の外側の技術で成り立ち、ともすれば医療者側が技術に使われかねません。それより医師が新たなビジョンを提示してオンライン診療を活用・普及させてほしい」と黒木氏は後進にエールを送る。

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