「一時滞在も長期在留も対応必至の時代!「外国人患者受け入れ」にどう備える?

  • 記事公開日:
    2024年02月09日

訪日外国人や在留外国人の増加を背景として、これまで外国人患者を診てこなかった医療機関でも対応が必須の時代になってきている。そこで、厚生労働省の「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」の作成にも加わった国際医療福祉大学大学院准教授の岡村世里奈氏に、外国人患者対応のポイントを取材した。

医療現場が知るべき外国人患者の多様化とは

地域によって異なる外国人患者の特性

2023年11月に2233万人を超えた訪日外国人は、世界的に有名な観光地だけでなく、全国各地を訪ねているのが特徴的だ。また、永住者や技能実習生などを含む在留外国人も322万人超と過去最高を更新。日本の人口50人に1人以上の割合を占めるようになった。

必然的に医療機関を受診する外国人患者も増加。「従来、外国人患者の受診は大都市や主要観光地、一部の外国人コミュニティのある地域に限られていたかと思います。しかし最近では、地方を訪れる外国人旅行者の増加や地方で働く技能実習生等の増加に伴い、地方の医療機関でも外国人患者の受診が徐々に珍しくなくなってきています」と国際医療福祉大学大学院准教授の岡村世里奈氏は言う。

「外国人患者の中には、日本とは異なる医療習慣や医療文化を持っていたり、日本語でのコミュニケーションが困難だったりする方も珍しくありません。そのような外国人患者の方であっても、日本人患者と同様の安心で安全な医療を提供するためにはもちろんのこと、医師をはじめとする医療職員の外国人患者対応に伴う不安なストレスを軽減させ、効率的に医療を行うためにも一定の体制整備は欠かせません」

それには厚生労働省の「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル(第4.0版)(2023年3月更新)」の情報が参考になるが、岡村氏は、「一口に外国人患者の受け入れ体制を整備するといっても、自院を受診する外国人患者のタイプ(在留外国人患者が多いのか、訪日外国人旅行者患者が多いのか等)や国籍、人数、自院の機能や役割等によって相応しい形は異なってきます。ですから、まず自院における外国人患者の受け入れの現状(将来予測も含む)をしっかりと把握して、どのような受け入れ体制を整備していくのか、その方針を明確にしていくことが大事だと思います。」と言う。

「例えば、通訳体制を整備する場合、在留外国人患者の多い地域、それも言語的に英語や中国語とある程度固定している地域の医療機関であれば、その言語の通訳者を雇用するという選択肢が出てくるかと思います。しかし、訪日外国人旅行者患者が多い地域の医療機関の場合、いつ、どこで、どのような言語の外国人患者が受診してくるか予測は困難で、対面通訳者を雇用してもあまり意味がありません。人を雇うだけのコストをかけられるのであれば、むしろ多言語対応の電話・映像医療通訳会社と契約を結んだ方が効果的です」

そうした自院の現状を把握するために役立つツールとして、岡村氏は以下の例を挙げる。

「厚生労働省が公開している多言語対応の診療申込書のサンプルには国籍、母国語、宗教上の理由で特別に配慮が必要な事項などの欄が設けてあり、患者の特性が把握しやすくなっていますので、このようなものを利用してまずは自院の外国人患者の受診状況等をしっかりと把握するところから始めていただけたらと思います」

※訪日外国人数/日本政府観光局(JNTO)による2023年11月までの累計

※在留外国人数/出入国在留管理庁の報道発表による2023年6月末の人数

国際医療福祉大学大学院准教授 岡村世里奈氏
国際医療福祉大学大学院准教授 岡村世里奈氏/国際医療福祉大学医療福祉学部医療経営管理学科助教、Beazley Institute for Health Law and Policy, Loyola University School of Lawの客員研究員等を経て現職。2010年度から厚生労働省をはじめ国内外の国際医療交流事業研究に携わる。内閣官房健康・医療戦略推進本部「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に関するワーキンググループ」メンバー、厚生労働省「訪日外国人旅行者等に対する医療の提供に関する検討会」構成員、厚生労働省・観光庁「地域の医療・観光資源を活用した外国人受入れ推進のための調査・展開事業」有識者委員会委員長等を務める。

通訳を使った診療にも慣れておく

実際に外国人患者を診る際、どの言語でコミュニケーション可能かは重要な問題だ。医師による問診だけでなく、診療前に宗教上の希望などを把握するときも日本語以外の対応が難しい医療機関は多いだろう。それを踏まえ、岡村氏は「通訳を介した患者対応や診療にも慣れておいてほしい」とアドバイスする。

「現在、通訳手法には、対面通訳、電話通訳、映像通訳、機械翻訳機の利用といった様々なものがあります。通訳を導入している医療機関では、利便性やコストの関係からこれらの手法を複数導入しているところがほとんどですが、どの通訳手法を利用するにしても、利用する医療従事者の方がそのコツを理解しているかどうかによって、かなり勝手が違ってきます。ですから、是非、こうした通訳手法の使い方にも慣れていっていただければと思います。なお、通訳手法の導入には費用がかかりますから、国や地方公共団体などが提供する安価な医療通訳サービスを積極的に利用したり、地域の医療機関で共同して医療通訳会社と契約して利用したりすることなどもあわせて検討されるといいでしょう」

このほか前述した厚生労働省のマニュアルには「やさしい日本語」による対応も推奨されている。例えば、漢語よりも和語を使う=「飲酒の習慣がある」→「いつも酒を飲む」など、いくつか事例を挙げて説明されているので、知っておくと現場で役立つだろう。

よりリアルで切実な医療費の問題にも注意

費用も含めたインフォームド・コンセントを徹底

さらに岡村氏は「外国人患者の中でも、訪日外国人旅行者患者の方は、日本語でのコミュニケーションが困難なことがほとんどですし、日本の医療文化・医療習慣にも慣れていません。さらにその費用は全額自己負担となるため未収金リスクも高く、医療機関にとっても最も対応が難しいタイプの外国人患者といえます」と話す。

「そのため、訪日外国人旅行者患者に関するトラブルを防止するには、例えば、当該治療の費用がどれくらいなのか、どのような支払い方法が対応可能なのか(例:クレジットカードの対応の可否等)、さらには宗教上の要望がある場合には自院ではどこまで対応できて、どこは対応できないのか、あらかじめ訪日外国人旅行者患者の方にお伝えして、納得していただいた上で診療を行うことが非常に大事になってきます」

「換言すれば、診療に関するインフォームド・コンセントだけではなく、費用やその他に関してもインフォームド・コンセントを徹底するということです。保険診療に慣れている日本の医療機関や医療従事者にとっては戸惑われることかと思いますが、言語の壁や医療文化・医療習慣の違い、さらには(高額にもなりかねない)自由診療といった特徴を有する訪日外国人旅行者患者とのトラブルを防止していくためには、やはりこうした姿勢ならびに取り組みが欠かせません」

費用がかかる治療を行わない選択肢も

外国人患者の医療費は、一般的に訪日外国人、在留外国人で以下のように異なる。

■外国人患者の医療費の違い

〈訪日外国人〉

・基本的には全額自己負担

・海外旅行保険加入者は保険会社による保障が考えられる。ただし既往症は適応外など保障範囲が決められていることが多い。医療費を保険会社が肩代わりして払う、患者が一度払って自国で保険会社に請求するなど支払い方法は保険により異なる

〈在留外国人〉

・永住者や長期滞在者/一般的に日本の公的保険に加入しており、通常の保険診療が適用される。日本語や日本の医療制度にも比較的慣れていると思われる

・技能実習生など/在留期間が3カ月を超える場合は公的保険に加入している(厚生年金保険または国民年金保険)。ただ、日本語や日本の医療制度に不慣れな在留外国人も多い

こうした医療費の問題は診療内容の選択にも直結する。岡村氏も「訪日外国人旅行者患者の方の場合には、最後まで日本で治療することがベストな選択肢とは限らない」と言う。

「もちろん日本で最後まで治療ができるのであればそれが最善策であることは間違いありません。しかし、医療費の支払いが困難な訪日外国人旅行者の方なら、必要な範囲の治療だけ日本で行って、その後は自国に戻って自国の医療保障制度の下で受けた方が余計な出費が避けられます。そうすれば、日本の医療機関にとっても未収金リスクが減り、両者にとってWin-Winの結果となる場合もあります。このように訪日外国人旅行者患者にとって何が最善策かは一概には言えませんので、繰り返しインフォームド・コンセントで確認することが大切です」

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