VOL.42

大学病院を離れ、地域医療の最前線へ。
日々、新たなやりがいを感じる。

医療法人三愛会 三愛会総合病院 眼科 
伊藤 正臣
氏(40歳)

岩手県出身

1999年
東京慈恵会医科大学卒業。同大学附属病院入職
2005年
東京慈恵会医科大学附属柏病院入職
2008年
独立行政法人国立病院機構相模原病院入職
2013年
医療法人三愛会 三愛会総合病院入職

昭和40年代に建てられた大規模団地の中に位置する、三愛会総合病院。文字通り、地域密着型の医療を提供する同院に、長年、大学病院に勤務していた伊藤正臣氏が転職した。医療機器が充実し、スタッフのレベルが高い環境の中で、自分の専門性を遺憾なく発揮。大学病院と異なる患者層や診療内容に、新しいやりがいを感じている。こうして転職に成功した背景には、念には念を入れた転職活動があった。

リクルートドクターズキャリア10月号掲載

BEFORE 転職前

土日を駆使して転職活動。
複数の病院を見学し、比較検討するのは楽しかった。

ネットで調べ、複数の医師紹介会社に登録した

「なるべくたくさんの病院を見て、転職先を決めたかったのです」

三愛会総合病院(埼玉県三郷市)眼科医長の伊藤正臣氏は語る。

伊藤氏は、内科医だった父の背中を見て育ち、自然と医師を志した。東京慈恵会医科大学の臨床実習中に、「患者の症状がわかりやすく、治療効果もはっきりしている」と感じて眼科を選び、卒業後は医局人事でいくつかの関連病院に勤務してきた。眼科医として充実した日々を送る中、結婚を機に、自身のキャリアを考え始めた。

「私の所属していた医局は、比較的、柔軟な人事体制で、希望を主張すれば勤務地等を配慮してくれるところでした。しかし、子どもが生まれ、家族との生活を考えると、異動せず一ヵ所に落ち着いて働きたいと思いました。自宅から通いやすく、育児のための十分な収入を得られる環境を求めて、転職を決意しました」

もともと臨床志向で、大学内での出世に強い関心がなかった伊藤氏。医局を離れ、自分の力で勤務先を探すことにした。

その際、躊躇なく医師紹介会社に登録した。

「私が専門とする網膜硝子体の手術は、比較的クリニックでは難しい領域のため、開業は考えていません。インターネットで調べて、複数の医師紹介会社に登録しました」

紹介会社に示した条件は、勤務地や給与、診療内容等。それまで勤務していた病院での診療を続けながら、転職活動を行った。

「土日を駆使して、複数の病院を見学しました。自分の勤務先以外の病院を見る機会はそうそうありませんから、純粋に楽しかったですね」

医療機器の充実ぶりは大学病院に引けをとらない

いくつかの病院を比較検討したところ、三愛会総合病院は、まずアクセスがよかった。伊藤氏は「当時、住んでいた都内から、高速道路ですぐの立地にあったのです」と振り返る。

また、給与はほぼ希望通りで、それだけでも他の病院よりアドバンテージがあった。さらに診療内容も魅力的だった。

「当院では、前任の医師も網膜硝子体の手術を行っており、すでに地域住民に周知されていました。自分で一から科を立ち上げ、患者を集めるのは非常に大変ですが、前任者の実績によって、そうした負担で困ることはないと思いました」

加えて、手術に必要な機器が豊富に揃い、大学病院に引けをとらないほどだ。

「面接の場で、入職後はさらに3つの機器を導入してもらうことを約束してもらいました」

快く設備投資に応じてくれる点は、資本力のある大手医療グループならではと言えよう。同院が「イムス」グループの病院であることは、初めての転職先を選ぶにあたって、一つの安心材料となった。

「同じイムスグループの病院には、大学の先輩が勤務していたことがありました。まったく知らないところではないため、安心感がありましたね」

また、面接では院内のあたたかな雰囲気を肌で感じた。

「院長先生とお話した際、優しく声をかけてもらったことが印象に残っています。『ぜひ来なさい』と引っ張るのではなく、当時の勤務先(医局)を円満に離れられるのか、と配慮してくださいました」

大学病院から一般病院へのキャリアチェンジは、少なからず診療内容が変わる。一般に、大学病院は専門外の領域を学びにくいと言われ、伊藤氏も大学附属病院の本院に勤務していた際は、そう感じていた。一方、三愛会総合病院のような一般病院ではどんな患者でも自分で診ることになる。それが、背中を押した。

「自分の努力次第で、幅広い経験ができると思いました」

家族との暮らしを大切にしながら、眼科医としてさらなる経験を積める環境へ。伊藤氏の新たなキャリアが幕を開けた。

AFTER 転職後

1人の患者を長く診る重さと、
術後フォローの重要さを前にも増して実感した。

眼科の専門知識を持つ看護師が多数在籍

転職から1年以上たった今、伊藤氏は「同じ患者を長く診る重みを実感しています」と語る。

以前、勤務していた場所は、紹介状のある患者以外はほとんど診ない環境だった。治療を終えた患者は紹介元の病院やクリニックに戻るのが通常で、その後の経過は基本的に関知しない。それが、現在は患者の予後も含めて自分が担当するようになった。

「例えば、進行した網膜剥離は、手術が成功しても、あまり見えるようにならない患者もいます。治療としては問題なくても、患者のQOLが完全に回復したわけではありません。転職して、そうした患者の訴えを直接聞けるようになりました。治療が患者の生活にどのような影響を与えるのか。術後のフォローをどうするのか等について、以前以上に考えるようになりました。治療をして終わりではないことに、やりがいを感じています」

患者との関わりは、より濃密になった。それを支えているのが、優秀な看護師である。通常、大学病院の看護師は、一定のサイクルで科をローテーションすることが多い。また、複数の科を同時に受け持つこともある。多様な経験を積むためではあるが、各科の専門知識を覚えた頃に異動になる面は否めない。それに対し、三愛会総合病院は看護師の異動が少なく、十分な専門知識を有している。

「眼科の外来の看護師は、前任の医師の頃からほとんど同じメンバーで、かなりプロフェッショナルに教育されています。手術室の看護師も優秀で、医師と同程度の知識を持つ者もいます。看護師が眼科の専門知識を持っていると、医師として非常に働きやすいですね」

オンとオフが明確で勤務時間に集中できる環境

眼科の専門知識を有する看護師とともに、手術をする伊藤氏。医療機器も豊富にそろい、やりがいが大きい。
眼科の専門知識を有する看護師とともに、手術をする伊藤氏。医療機器も豊富にそろい、やりがいが大きい。

また、現在は当直がなく、基本的には午前9時から午後5時半までの定時で仕事が終わる。楽をしたいわけではないが、オンとオフが明確になったことで伊藤氏自身のQOLも上がった。

「家族と過ごす時間は増えましたね。勤務時間内に集中して仕事ができる環境です」

キャリアチェンジをした目的は、すでに達成されているように見える伊藤氏。これから転職をする医師に向けたアドバイスを求めると、こんな答えが返ってきた。

「転職の成否は、最初の数ヵ月では判断しないほうがいいと思います。地域の患者に認知され、自分の診療スタイルが確立されるには、ある程度の時間がかかるからです。数年は働いてみなければ、得られるよい結果も得られなくなるかもしれません。私は、転職した当初より、今のほうが断然楽しいですよ」

WELCOME

転職先の病院からのメッセージ
医療法人三愛会 三愛会総合病院 院長 清水弘文氏

医師の多様な働き方を尊重する風土がある

三愛会総合病院が位置するのは、昭和40年代に建てられた「みさと団地」の真ん中だ。住民同士のコミュニティが密で、院長の清水弘文氏は「伊藤先生の評判を口コミで知って来院する患者も多いようです」と語る。伊藤氏が専門とする網膜硝子体の手術は、大学病院以外ではあまり行われない。地域住民にとって頼りになる存在で、近隣のクリニックからの紹介も少なくない。

清水氏によると、同院には伊藤氏のほかにも大学病院から転職してきた医師がいる。理由の一つは、医師の多様な働き方を尊重する風土があることだ。

「伊藤先生のように手術を積極的に行いたい医師はもちろん、プライベートを重視して短時間勤務をしたい医師も在籍します。また、将来的に開業を目指している医師も、経験を積める場です。当院には開放型病床がありますから、開業してからも当院の医師と共同して診療を行うこともできます」

女性医師の支援にも、力を入れている。勤務時間は定時で終わり、当直も義務ではない。院内保育所を完備し、子どもの発熱等イレギュラーにも柔軟に対応する。

「すでに2人の女性医師が活躍しています。子育てを終えたあとの復職も歓迎しています」

亜急性期や在宅医療にも本格的に取り組む

今後、全国の病院では2025年問題に向けて、病床機能のあり方を検討することが課題になっている。同院においては、急性期は特定の科に集中する方向で検討されている。

「眼科や泌尿器科等、地域で完結できる科は急性期機能を維持します。呼吸器内科も、慢性呼吸器疾患看護認定看護師が在籍しますから、意欲のある医師が入職すれば、存分に腕を振るってもらえるでしょう」

その一方で、地域のニーズの高い亜急性期や在宅医療にも本格的に取り組む。すでに地域包括ケア病棟を設け、訪問看護ステーションも立ち上げた。さらに地域内のネットワーク作りにも着手している。

「当院を中心に、在宅医療を担うネットワークを構築中です。近隣のクリニックが訪問したり、当院の医師が訪問したりと、フレキシブルに対応できる体制を目指しています。みさと団地の住民の高齢化率が高まっているため、早くモデルケースを作りたいのです」

つまり、急性期を診たい医師も、亜急性期から慢性期を担いたい医師も、活躍できる場が用意されているのだ。

「これから自分がどうしたいのかが明確であれば、きっと満足して働くことができるでしょう。仕事中心にしたいのか。子育てに注力したいのか。あるいは開業したいのか。いずれの働き方も、当院は応援します」

清水 弘文氏

清水 弘文
医療法人三愛会 三愛会総合病院 院長
東京都出身。1984年東京医科大学医学部医学科 卒業。90年東京医科大学病院本院泌尿器科病棟医長、91年八潮中央総合病院泌尿器科部長、98年帝京大学医学部附属病院泌尿器科病棟医長、2006年大和病院院長、09年明理会中央総合病院入職。11年から現職。

医療法人三愛会 三愛会総合病院

1986年に、IMS(イムス)グループの一施設として、みさと団地の中央に設立。20床の病床数からスタートしたが、三郷市の人口増加とともに病院も充実。現在は178床の病床数を有する。最新の医療機器と高度な医療技術を備える総合病院として、地域密着型の医療を提供している。グループの基本理念である「愛し愛されるIMS」を目指し、スタッフが一丸となって日々、努力を重ねている。

医療法人三愛会 三愛会総合病院

正式名称 医療法人三愛会 三愛会総合病院
所在地 埼玉県三郷市彦成3-7-17
設立年月日 1986年
診療科目 内科、循環器内科、消化器内科、呼吸器内科、
人工透析内科、小児科、外科、整形外科、
眼科、耳鼻咽喉科、泌尿器科、皮膚科、
麻酔科、脳神経外科、リハビリテーション科
病床数 178床
常勤医師数 17名
非常勤医師数 50名
看護師数 148名
外来患者数 1日平均444人
入院患者数 1日平均147人(2014年9月現在)