経費を高め、売り上げは低めが無理のない計画の基本
適切な医院経営を行うには、綿密な事業計画が不可欠だ。日本医業総研の植村智之氏は「まず平均診療単価、つまり患者1人当たりの診療報酬を現実に近い形で試算すること」と話す。
平均診療単価は診療コンセプトによって決まる。どういう患者層で、どのような検査、治療をするかなどが基となる。目安として、院外処方の一般内科で4500円、循環器内科(3割の患者が循環器疾患)で6000円、呼吸器内科専門で7000〜8000円ほどだ。専門性が高いほど単価も高い。
次に、収入・支出をシミュレーションし、損益分岐点を予測する。収入は月当たりの診療日数、平均診療単価、診療圏調査で求めた患者数を掛け算する。支出は、月当たりの経費を積み上げる。経費には、人件費、広告宣伝費、医療機器リース料、家賃、借入返済といった固定費と、医療材料仕入れ高や検査委託費などの変動費がある。下図に示すように、経費と売上高の交わった点が損益分岐点となる。
「計画上は、経費を高め、売り上げは低めに見積もり、1年以内の黒字化を目指します。実際にはもっと早く黒字化するケースもありますが、新規開業の患者数は少なめから始まる傾向です。窓口負担以外の診療報酬が医院に入金されるのは2ヵ月後。スタート時点の収入が損益分岐を下回る可能性を加味して、厳しめに設定するのです」
経営が軌道に乗るまでの運転資金も必要だ。経営の見通しによって、売り上げの3カ月分だったり1年分だったりする。大きな金額になることから、金融機関からの借り入れに頼る場合が多い。適切な借入額は、開業時貸借対照表を作ることで決まる。
「初期投資として必要な運転資金、内装費や設備費、医師会入会金、広告宣伝費などを、最低1年分はシミュレーションした上で記載します。さらに、現金預金(自己資金)を勘案し、足りない分を借入額とします」
自己資金は、1年分ほどの生活費を除いた残りが目安だ。
「医師は月額80万円くらいの生活費があると大丈夫な場合が多い。開業適齢期の40代前半は、子どもの教育費がかかって開業資金ゼロのケースもあります。それでも、綿密な事業計画をたてて慎重に進めれば成功します」
借入時には、可能な限り長期返済にすることも注意点だ。
「経営上のリスクが高い1年目をうまく通過するには、金利の支払い総額が高くなる反面、月々の返済額を押さえられる長期返済が適しています。かつ、ここしばらくは低金利が続いていますので、設定金利の低い変動金利を選択し、事業が軌道に乗った段階で繰り上げ返済を検討することをお勧めしています。金融機関は複数を比較検討しましょう。都市部の医院でも、地方銀行の方が有利な条件で借りられる場合もあります」
今回、解説した事業計画は医師自身が用意するのは難しい。医院開業に詳しいコンサルタントのアドバイスを受けて作成することが現実的だ。
- 植村 智之氏
- (株)日本医業総研 東京本社 シニアマネージャー
- これまで約400件のクリニック開業を成功に導いた東京本社の責任者。自身も60件超の開業案件を手掛けている。無理なく事業が軌道に乗る資金計画に定評がある。
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