個人事業として開業し、利益が大きくなってきた時、さらに医院を拡大したいと考える医師も多い。医療法人化は定番のステップアップ手法だ。税理士法人日本医業総研の社員税理士・岡本啓子氏によると、医療法人化には節税のメリットがあると言う。
「個人事業主の所得税は最高税率が45%で、復興特別所得税の0・021%も課税されます。一方、医療法人の法人税は最高税率が23・9%で、さらに下がることが決まっています。復興特別所得税もありません」
さらに、個人事業では認められなかった項目を、経費化できるようになる。
「生命保険をうまく活用することで、保険料の一部を経費として計上できます。院長や理事への退職金や、役員報酬も経費になります」(岡本氏)
ただし、院長が役員報酬を得ると所得税が高くなる。医療法人に慣れている会計事務所に相談し、法人税と所得税のバランスを考慮したほうがいい。
分院展開も、医院拡大によく用いられる手法だ。株式会社日本医業総研・シニアマネージャーの植村智之氏は、分院の院長の人選が重要だと言う。
「患者とうまくコミュニケーションを取ることができ、なおかつ適度に経営感覚を持っている医師を選ぶ必要があります。よくあるのは、分院の院長が人件費を考慮せず『忙しいから看護師を増やしてくれ』と言うケース。これを防ぐためには、インセンティブの仕組みを導入することです。利益に連動した報酬体系にすれば、経費に対する意識が変わります」
逆に、あまりにも経営意識が強い医師を分院の院長にすると、すぐに自分で開業されてしまう可能性がある。
「雇用契約書に『半径○キロ以内では開業しない』など、競業禁止の項目を入れておきましょう」(植村氏)
もう少し手軽な方法としては、二診体制がある。だが、院長自身と同じ診療科の医師を増やすのはハイリスクだ。
「自分が診る患者が減る分、楽になりますが、すぐには売り上げが伸びません。もう1人の医師が常勤なら人件費は年間1000万円以上になり、赤字になる可能性もあります」(植村氏
分院展開、二診体制、他事業への展開も検討する
おすすめは、伸びしろのある他科の医師を非常勤で招聘することだ。
「例えば、もともと片手間に皮膚科も診ていた泌尿器科医院に、週2日だけ皮膚科医を入れる。一般内科医院に、週1~2日、神経内科医や糖尿病専門医を入れるなどです。すでにニーズがある科ですから、専門医が質の高い診療をすれば患者が増えます」(植村氏)
ほかに、他事業に展開する方法も検討の余地がある。二診体制同様、もともとの診療科と関連のある事業がいい。
「内科で在宅も行う医院なら、訪問看護ステーションや、居宅介護支援事業所などの介護事業が適しています。居宅介護支援事業所を持っていると、ケアプランの中に自院の訪問診療や訪問看護を組み入れることができ、利益を挙げられます。大手介護事業所に負けないために、医療と連動した介護事業にすることが大切です」(植村氏)
医師の思い入れが詰まった医院を、どう成長させるか。その答えを考える過程も、開業医としての醍醐味かもしれない。
医療法人化のメリット
・税金を抑えられる
個人事業主の所得税は最高税率が45%だが、医療法人の法人税は最高税率が23.9%と低い。
・経費化できる項目が増える
院長や理事の生命保険料、退職金、役員報酬を経費として計上できる。
・事業を展開しやすくなる
法人格があると分院展開や、他事業への展開がしやすくなる。
- 植村 智之氏
- (株)日本医業総研 東京本社 シニアマネージャー
- これまで約400件のクリニック開業を成功に導いた東京本社の責任者。自身も60件超の開業案件を手掛けている。無理なく事業が軌道に乗る資金計画に定評がある。
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