受付スタッフや看護師を採用するには、まず採用計画を立てる。募集人数、賃金、雇用形態、勤務時間などを考え、必要な人件費をあらかじめ想定しておくのだ。日本医業総研の植村智之氏によると、開業当初の募集人数は診療科や医院の規模によって異なるものの、受付スタッフは2人、看護師は1〜2人が無難なようだ。加えて、なるべくパート採用にすることを勧める。
「パート採用は、社会保険料などの間接人件費を抑えられます。また、忙しさに合わせてシフトを増減しやすいため、経営が安定するまでの期間もフレキシブルに対応できます。医院が黒字化したら、常勤化を考えましょう」
人件費は売上の20%台前半が適正だと言う。その範囲に収まることを意識しつつ、時給を設定しよう。
「受付スタッフの時給は都心で1000円〜が相場。郊外にいくほど安くなります。近くにある他院の求人広告を参考にして、地域相場と同等で募集するのが基本です。一方、看護師の時給は都心で1900円〜が相場ですが、売り手市場で人員確保が難しい。相場より少し上で募集したいところです」
“理想のスタッフ像”を考えておくことも、院長として大切な仕事だ。
「細かなことに気付く医師にとって、大雑把なスタッフは苦痛の原因になります。逆に、大らかな医師に神経質なスタッフは合わないことがあります。『自分にないものを補完するのはどんな人材か』の観点で、一度、自己分析をしておく必要があります」
元勤務先の同僚や、妻をスタッフにする際の注意点
以上の採用計画は、医院の事業計画を立てる段階で考えておくべきことだ。実際に募集をかけるのは、開業3ヵ月前。求人媒体にはネット、フリーペーパー、新聞折り込み、さらに紹介会社がある。立地などによって、各媒体をうまく使い分けよう。
「都心のターミナル駅にある医院は、広域に募集をかけられるネットが向いています。看護師は、看護師募集の専用サイトを使うといい。短期間で募集する時や、専門性を重視したい時は紹介会社を利用します。紹介会社は採用に至りやすい方法ですが、手数料を勘案し、慎重に検討しましょう」
地域密着型の医院は、フリーペーパーと新聞折り込みが適している。
「配布範囲が限られる紙媒体は、特に受付スタッフの募集に使います。比較的、近所に住む主婦層がターゲットになるためです。自院の最寄り駅周辺と、その駅から何駅か郊外にある駅にも広告をまくといいでしょう。フリーペーパーは20〜30代の若手、新聞折り込みは40代以上の年代がよく見ています」
なお、元勤務先の同僚や、妻を採用しようと考えるなら、注意が必要だ。
「同僚として接する時と、雇用関係になった時とでは印象が違うものです。院長がコントロールできる人か、よく考えましょう。病院で当直をしている看護師は、月給が30万円以上のこともあります。待遇面が見合うかどうかも重要です。妻に関しては、中途半端な関わり方はせず、院長とスタッフの橋渡し役となるか、経理・総務などの裏方に専念するか決めましょう。妻が看護師の場合は、他の看護師がいない日を勤務日にするなどの配慮も必要です」
求人媒体の使い分け
- ネット
広域に募集する時に最適。看護師専用サイトもある。
- フリーペーパー
駅などにあり、20~30代の募集に向いている。
- 新聞折り込み
読者の年齢層が比較的高く、40代以上の募集に適する。
- 紹介会社
主に看護師の募集に使用。登録者が多く、採用に至りやすい。
- 植村 智之氏
- (株)日本医業総研 東京本社 シニアマネージャー
- これまで約400件のクリニック開業を成功に導いた東京本社の責任者。自身も60件超の開業案件を手掛けている。無理なく事業が軌道に乗る資金計画に定評がある。
他の開業特集を見る
開業特集
開業にまつわる様々な悩みを解消するコンテンツをご紹介します。
後悔しないために知っておきたい開業マニュアル一覧
-
- 開業マニュアルPhase1 方針検討
- 病院を開業するにあたり、最初のステップとなる方針検討についてご説明します。自分の「強み」「弱み」を整理するところからスタートです。
-
- 開業マニュアルPhase2 立地選定
- 開業の成否を大きく左右する立地の選定について、エリアの絞り込み方をご紹介します。診療コンセプトに基づいた入念な準備が欠かせません。
-
- 開業マニュアルPhase3 物件選定
- 医院の物件選定において、テナント、戸建て、医療モールなどの選択肢の選び方を考えます。優良物件と出会うには、十分な立地選定が大前提です。
-
- 開業マニュアルPhase4 事業計画(資金調達)
- 適切な医院経営を行うために不可欠な事業計画。損益分岐点や資金繰りなどの基本的な考え方を解説していただきました。
-
- 開業マニュアルPhase5 設計
- 設計事務所・施工業者を分けるべきかといった、医院の建築や内装の業者を決める際におさえておきたいポイントをご説明します。
-
- 開業マニュアルPhase6 広告宣伝
- 開業時の広告宣伝は、「紙」と「Web」の両方を上手く使いこなすことが大切です。広告宣伝のタイミングや、気を付けたいポイントについてご説明します。
-
- 開業マニュアルPhase7 人材採用
- 受付スタッフや看護師を採用するには、まず採用計画を立てましょう。募集人数、賃金、雇用形態、勤務時間などを考え、必要な人件費をあらかじめ想定しておくのがポイントです。
-
- 開業マニュアルPhase8 採用面接
- オープニングスタッフは医院の風土を作るメンバーです。対応が悪い人材を採用してしまうと医院のイメージを損ないますから、採用面接は慎重にする必要があります。
-
- 開業マニュアルPhase9 労務管理
- 医師でありながら経営者でもある開業医。診療の他、スタッフの労務管理も行わなければなりません。スタッフを採用した時には労働契約書の締結も必須です。
-
- 開業マニュアルPhase10 経営管理
- 個人事業主として開業すると、毎年、確定申告をすることになります。確定申告をはじめとした、経営管理のポイントについてご説明します。
-
- 開業マニュアルPhase11 経営分析
- 開業後、しばらくすると1日の患者数や、売り上げに限界が見える。さらに上を目指すには、客観的な経営分析が必要となります。着目すべき「診療単価」と「レセプト単価」をはじめとした経営分析のポイントについてご説明します。
-
- 開業マニュアルPhase12 医院拡大
- 個人事業として開業し、利益が大きくなってきた時、さらに医院を拡大したいと考える医師も多くいます。医院拡大の定番のステップアップ手法とも言える医療法人化について、分院展開や二診体制といった手法と併せてご説明します。
承継による開業情報
-
- 承継によるクリニック開業のご案内
- 新規開業ではなく、既存医院の事業を引き継ぐ形での承継開業。業界最大級の案件数を持つリクルートグループの医療専門スタッフが、承継開業を支援いたします。案件のご相談はこちらから。
-
- クリニック・医院の後継者をお探しの施設様へ
- ご親族以外の後継者へのクリニック承継を、第三者承継といいます。後継者をお探しの方はこちらからご相談ください。