開業医は医師でありながら経営者だ。診療の他、スタッフの労務管理も行わなければならない。スタッフを採用した時には労働契約書の締結が必須だ。労働契約書に必ず書くべきは次の5つ。
- ①労働契約の期間
- ②就業の場所、業務の内容
- ③始業・終業の時刻、残業の有無、勤務の交代時間と順序
- ④賃金の決定、計算・支払い方法、賃金締め切り・支払い時期、昇給の有無
- ⑤退職に関する事項(解雇の事由)
日本医業総研の植村智之氏によると、このうち①労働契約の期間には有期雇用か無期雇用かを記す。どちらにすべきか迷うが、植村氏は後者を推す。
「有期契約は、契約更新しないことでスムーズに退職してもらえます。ただし、雇用が不安定なため、良い人材が契約更新を辞退する可能性もあります。よほど不安な人材でない限り、最初から無期雇用の方が望ましいでしょう」
スタッフが10人以上になったら、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る義務が生じる。就業規則は、労使間でトラブルが生じた際、解決の根拠となる院内ルールだ。
必須項目は、労働契約書の③、④、⑤と重なる。その他、退職金や服務規程、福利厚生なども定めておく。インターネット上に雛形が出回っているが、一般企業向けのものは医院に適さない。医療機関の労務に精通した社会保険労務士に相談したほうがいい。
働きやすい医院を作る日頃のコミュニケーション
開業後は、スタッフ同士のトラブルが起こることもある。
「あるスタッフが問題を起こしたと聞いて問い詰めたら、実は事実ではなかった、などというケースも生じ得ます。スタッフが働きやすい医院にするには、日頃からコミュニケーションをとることが大切です」
コミュニケーションの定番は朝礼だ。2~3分でもいいので、毎日朝礼を行うことで、申し合わせ事項、患者トラブルの注意などの情報共有が密になる。また、定期的に個人面談を開くことも効果的だ。スタッフの考え、困っていることを話してもらうと同時に、院長の考えを伝える場でもあり、組織全体に理念を浸透させることにつながる。月1回程度のグループミーティングで、全スタッフが集まる場を設けてもいい。
「ある医院では、毎日、院長とスタッフが一緒に昼食をとっています。非常にコミュニケーションが円滑で、スタッフが辞めない医院です」
労務管理と言えば、社労士に任せておけばいいと思うかもしれないが、そうではない。植村氏は、開業当初の医院の組織体制を「文鎮型」と表現する。
「院長をトップに、すべてのスタッフがフラットな関係性にある組織のことです。院長自身がマネジメントをして、組織の理念を徹底させることが大切で、ここに社労士を加えると責任の所在があいまいになり、組織が揺らぎます」
開業からしばらくたち、経営が安定してきたら「ピラミッド型」の組織体制になる。
「院長だけでなく、ナンバー2や3の中間管理職がスタッフのマネジメントをするのです。中間管理職として頼れる人材を育てるためにも、コミュニケーションは非常に大切です」
開業後の組織体制
〈開業当初〉文鎮型
院長がスタッフのマネジメントをすべて担う
〈経営が安定したら〉ピラミッド型
中間管理職がスタッフのマネジメントを代行
- 植村 智之氏
- (株)日本医業総研 東京本社 シニアマネージャー
- これまで約400件のクリニック開業を成功に導いた東京本社の責任者。自身も60件超の開業案件を手掛けている。無理なく事業が軌道に乗る資金計画に定評がある。
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