医院開業の実績がある業者を選ぶことが重要
医院の建築や内装の業者を決める際には、2つの選択肢がある。設計事務所と施工業者を分けて依頼するか、施工業者に設計・施工の両方を依頼するかだ。
前者の場合は、競争原理が働く点がメリットだ。日本医業総研の植村智之氏は次のように説明する。「まずは設計事務所と契約し、設計図を作成します。その上でコンペを開催し、複数の施工業者の入札を募ります。同じ設計図でより安く施工する業者を選べばいいのです」
だが、注意すべき点もある。コンペに参加する施工業者を適切に選ばなければ、談合が起こりかねないのだ。
「地元の業者だけ、あるいは設計事務所やコンサルタントなどが選んだ業者だけでは、入札価格が下がらなかったり、1社を除いて高止まりしたりすることがあります。医師が無作為に探した施工業者も入れるなど、参加者に偏りがないようにしましょう」
設計事務所と先に契約することで、「設計監理料」がかかる点も見過ごせない。植村氏によると、設計監理料は工事費用全体の6~8%が相場。工事の規模によっては重い負担だ。
「例えば、戸建ての医院で工事費が5000万円を超えるような場合は、コンペを開催する意義も大きいでしょう。しかし、小規模なテナントの内装など、1000万円程度の工事に設計監理料が100万円近くかかるようでは、結果的に割高になることがあります」
従って、小規模な医院の場合は施工業者に設計・施工ともに依頼した方が低コストなことが多い。ただ、その際にも慎重を期すべきだ。
「例えば、プレゼンの段階で3社に見積もりをとっても、最終的な工事費がわかるのは設計が完了してからです。その前までに、どこか1社に決めねばなりませんが、最初の見積もりに比べ工事費が大きく膨らむこともあり得ると覚えておいてください。打ち合わせの過程で、あれもやりたいこれもやりたいとなり、見積もりの3割増しもの工事費になる場合もあるのです」
そうした事態を防ぐために、見積もりの段階から、医師が資金をコントロールする意識を持たなくてはならない。
「先に予算を伝えると、上限ギリギリの高い工事費を提示されますから避けてください。その施工業者が過去にリーズナブルな工事をした実績がどれだけあるか。設計段階で低コストになるように工夫してくれるかなどを聞くようにしましょう」
なお、設計事務所にしても、施工業者にしても、医療に詳しい業者かどうかは重要な点だ。
「医院開業に携わった実績が乏しい業者は、院内の動線で失敗しがちです。医師、スタッフ、患者の動きをわかっていないために、受付、診察室、処置室が裏動線でつながっていなかったり、X線室がやたら遠くに設置されたりするケースがありました」
業者によっては、歯科医院や介護施設の実績をアピールしてくるところも。だが、やはり医科の医院に精通していないところは避けた方が賢明である。
①設計事務所・施工業者を分ける
- コンペで施工業者を募るため、競争原理が働いて工事費を安く抑えられる。
- 談合の可能性に注意。
- 設計監理料がかかるため、小規模な工事では割高になりがち。
②施工業者にすべてを依頼する
- 小規模な工事では費用を抑えられる。
- 最終的な工事費が見積もりより高くなりがち。
- 医師が資金をコントロールする意識を持つ必要がある。
- 植村 智之氏
- (株)日本医業総研 東京本社 シニアマネージャー
- これまで約400件のクリニック開業を成功に導いた東京本社の責任者。自身も60件超の開業案件を手掛けている。無理なく事業が軌道に乗る資金計画に定評がある。
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