個人事業主として開業すると、毎年、確定申告をすることになる。確定申告には「青色申告」と「白色申告」があり、通常は青色申告を選択する。課税所得を少なくでき、所得税や住民税、医師国民健康保険料を安く抑えられるからだ。長年にわたり、医院の会計顧問に携わる税理士法人日本医業総研の社員税理士・岡本啓子氏によると、大きく3つのメリットがある。
①65万円の青色申告特別控除
複式簿記で収支を記帳して確定申告した場合、課税所得から65万円が控除される(簡易簿記は10万円控除)。
②赤字の繰り越し
売り上げより経費が多く、赤字が出た場合、以後3年間にわたり、課税所得から赤字分を差し引くことができる。
③青色事業専従者給与
妻など生計を一にしている人が医院を手伝った場合、給与を支払える。
「労務の対価として相当である金額であれば、経費として認められます。他人を雇用した場合と同程度の給与が目安です」(岡本氏)
青色申告をするには、開業日から2ヵ月以内に税務署へ届出る必要がある。ただし、ワンルームマンションの賃貸など不動産収入のある場合は要注意だ。
「すでに個人事業主であると見なされるため、開業する年の3月15日までに届出なければなりません」(岡本氏)
確定申告時には、申告書とともに貸借対照表や損益計算書などの財務諸表も提出する。これらの元になるのが、日々の売り上げや経費、利益を記録した帳簿だ。申告時の必要書類の作成や日々の記帳は、院長自身やスタッフが行う医院もある。だが、かなり手間がかかるため、会計事務所に依頼するケースも多い。顧問契約を結ぶと、書類作成や記帳の他、月1回の訪問で経営のアドバイスをしてもらえる。
「医療は保険収入など特殊なルールがあります。医療機関を中心としている事務所を選ぶことが大切です」(日本医業総研・植村智之氏)
院長個人の現金、銀行口座と医院で使うものを別々にする
確定申告の他に、日々の収入の管理も大切だ。医院の収入には「窓口収入」「保険収入」「自費診療の収入」がある。窓口収入と自費診療の収入で得る現金は、管理方法にコツがある。
「現金を1日ごとに銀行に預けることをお勧めします。何月何日にいくら現金収入があったかを通帳に記録できるため、あとから確認する際に楽になります。数日分の現金をまとめて銀行に持っていき、1日分ずつATMに預けてもいいでしょう」(岡本氏)
保険収入は審査支払機関から銀行振込で入金される。開業資金を借り入れた金融機関に、借り入れ時と同じ口座を指定されることが多い。
また、それ以前に院長個人の現金や銀行口座と、医院経営で使う現金、銀行口座は別々にするのが鉄則だ。
「例えば清掃業者への支払いなど、医院で使う現金を院長の財布から支払うと、その後の記帳が煩雑になります。医院で使う現金は『小口現金』として手提げ金庫で管理するといいでしょう。銀行口座は、医院用の口座から、毎月、一定額の生活費を個人用口座に移し、別々に管理します」(岡本氏)
確定申告とは?
個人事業主が年間に納めた税金等の過不足を精算する手続き。毎年1月1日~12月31日に生じた全ての所得と、それに対する所得税・復興特別所得税の金額を計算し、税務署に申告する。控除額の大きい青色申告は、開業日から2ヵ月以内の届出が必要。
- 植村 智之氏
- (株)日本医業総研 東京本社 シニアマネージャー
- これまで約400件のクリニック開業を成功に導いた東京本社の責任者。自身も60件超の開業案件を手掛けている。無理なく事業が軌道に乗る資金計画に定評がある。
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